
先生、知財戦略って難しすぎます!
どうすれば事業に役立てられるんですか?



大丈夫、焦らなくていい。戦略は実行してこそ意味がある。
今日はその最終ステップを教えよう。



最終ステップですか?
具体的に何をすればいいんでしょう?



事業部門を巻き込むんだ。
彼らを動かして初めて、戦略は活きてくるんだよ。
企業の知財担当者、経営者の皆様、こんにちは!
このブログでは、特許戦略・知的財産戦略(知財戦略)の立案プロセスをステップごとに解説してきました。
Step1の情報収集から始まり、Step2の現状分析、Step3の将来像描写、そしてStep4の行動計画策定。
本当にお疲れ様でした!
素晴らしい戦略の骨格ができたはずです。
しかし、どんなに優れた戦略も、実行されなければ「絵に描いた餅」です。
そして、知財戦略の実行は、残念ながら知財部だけでは完結しません。
技術を生み出す研究開発部門。市場で戦う事業部門。そして会社全体の舵を取る経営層。
多くの「仲間」の理解と協力があってこそ、戦略は初めて現実のものとなります。
今回は、その最終ステップ【Step5:仲間を動かす】
特に、戦略実行の主役とも言える「事業部門」を巻き込み、立案した戦略を推進していくためのコミュニケーション術、合意形成の技術について解説します。
ここが、あなたの戦略に命を吹き込む、最後の、そして最も重要な関門です!
この記事を読み終えた時、あなたが自信を持って仲間たちに語りかけ、共に未来へ向かって力強く歩み出す。
そんな後押しができれば幸いです。
✓ なぜ「仲間を動かす」ことが知財戦略成功の鍵なのか?
✓ 事業部門を行動に導くプレゼンテーションの考え方
✓ 相手に「自分ごと」として捉えてもらうための伝え方のコツ
✓ スムーズな合意形成のための事前準備と対話の技術
なぜ「仲間を動かす」必要があるのか? ~戦略実行の現実~
素晴らしい知財戦略プランが完成しました。
しかし、それはまだスタートラインに立ったに過ぎません。
戦略を実行に移すには、必ず他部門、特に事業部門の協力が必要になります。
なぜなら、彼らこそが市場の最前線に立ち、製品開発や販売戦略を実際に動かす主役だからです。
彼らが戦略の意図を理解し、「これは自分たちの目標達成にも繋がる!」と納得してくれなければ、戦略は進みません。
知財部だけで「権利を取りました」「分析しました」と言っても、それが事業成果に結びつかなければ意味がないのです。
仲間を巻き込み、共通の目標に向かって進むこと。
これが、戦略を成功させるための現実的な道筋です。
ステップ1:心を掴むプレゼンテーション ~目的は「行動」と「共感」~
さあ、あなたの戦略を仲間たちに伝えましょう。
その最初の場がプレゼンテーションです。
これは単なる報告会ではありません。
相手の心を動かし、具体的な「行動」を引き出し、戦略への「共感」を得るための重要なコミュニケーションの場です。
「競合の特許動向です」とデータを見せるだけでは不十分です。
「このデータから、我々の事業にはこんなリスクがあり、だからこそ、今、こういうアクションが必要なのです!」と、課題意識と解決策を結びつけて伝えましょう。
例えば、「競合A社の特許出願が急増しています。
このままでは、主力製品Xの将来が危ういかもしれません。
そこで、
「技術Yの先行開発と権利化を、事業部と連携して進めたいのです!」
のように、具体的なストーリーで語りかけることで、相手は「他人事」ではなく「自分事」として捉え、行動への動機が生まれます。
ステップ2:動いてもらうための「具体性」~メリット・役割・期限の明確化~
相手に「よし、やろう!」と思ってもらうには、その行動が相手(事業部門)にとってどんな「メリット」があるかを明確に伝えることが不可欠です。
その際、「会社の利益になります」だけでは弱いかもしれません。
可能であれば、事業部門が追いかけているKPIや目標達成にどう貢献するのか。
その視点で語ることができれば、説得力は格段に増します。
そして、「誰が、何を、いつまでにやるのか」という役割分担とスケジュールを具体的に示しましょう。
「知財部としては〇〇を支援します。事業部には△△をお願いしたい。期限は□月□日です。」
このように期待するアクションを明確にすることで、責任感が生まれ、計画が前に進みます。
ゴールとそこに至る道筋を具体的に示すことが重要です。
伝えるべき具体性 | ポイント | なぜ必要か? |
---|---|---|
相手にとってのメリット | 相手の目標達成(KPI等)にどう貢献するか具体的に示す | 「自分ごと」として捉え、動機づけを高めるため |
役割分担 | 「誰が」「何を」行うのか、期待するアクションを明確にする | 責任の所在を明確にし、実行をスムーズにするため |
スケジュール・期限 | 「いつまでに」何をするか、具体的なマイルストーンを示す | 計画性を高め、具体的な行動を促すため |
ステップ3:伝わる資料作り ~相手目線の情報デザイン~
想いを伝えるためには、分かりやすい資料が欠かせません。
パワーポイントなどが一般的でしょう。
作成のポイントは「徹底的な相手目線」です。
以下の点に注意して資料を作りましょう。
- 結論から話す: まず最も伝えたいメッセージを最初に示します。
- ストーリーで語る: なぜこの戦略が必要なのか、背景から課題、解決策、期待される未来まで、一貫した物語で構成します。
- 専門用語は翻訳する: 知財の専門用語は避け、事業部の言葉で語りかけましょう。
- 図やグラフを活用する: 複雑な情報も、視覚化すれば直感的に理解しやすくなります。
- 相手に合わせる: 技術者には技術のポイントを。営業には市場への影響を。経営層には投資対効果を。相手の関心事に合わせた資料構成を心がけます。
説明相手 | 主な関心事 | 資料で強調すべきポイント例 | 言葉遣いの注意点 |
---|---|---|---|
技術者 | 技術的な新規性、実現可能性、課題 | ・技術の詳細、データ ・既存技術との比較 ・開発上の課題 | 専門用語もある程度使用可。ただし丁寧な説明を心がける |
事業部長 | 市場へのインパクト、売上・利益への貢献、競合優位性 | ・ビジネスモデル、市場分析 ・売上予測、KPIへの貢献 | ビジネス用語中心。専門用語は「翻訳」が必要 |
経営層 | 全社戦略との整合性、投資対効果(ROI)、リスク | ・経営ビジョンとの繋がり ・必要な投資とリターン ・事業リスク | 簡潔明瞭に。結論ファースト。経営視点の言葉を選ぶ |
資料は情報を詰め込むものではありません。
あなたのメッセージを効果的に伝え、相手の理解と共感を促すためのツールです。
ステップ4:まず「身内」から!自部門での合意形成
渾身の資料ができあがりました。
しかし、すぐに事業部門へ説明に行くのは待ってください。
その前に、必ず自部門(知財部)内で、上司も含めて内容の合意形成を図りましょう。
これは非常に重要な「根回し」です。
もし、自部門内ですら意見が割れている状態で他部門に説明したらどうなるでしょう?
他部門からの質問や反論に、自部門内からも「いや、それは違うのでは…」といった声が上がれば、場は混乱し、信用を失います。
「まずは部署内でまとめてから来てください」と言われてしまうかもしれません。
他部門に説明に行く際は、自部門メンバーが全員「味方」である状態を作りましょう。
事前に十分な議論を重ね、質疑応答をシミュレーションし、上司の承認を得ておく。
これが、自信を持って説明に臨むための土台となります。
ステップ5:「対話」で壁を越える!関連部門への説明と合意形成
さあ、いよいよ関連部門への説明です。
準備は整いました。
自信を持って臨みましょう。
説明する際は、落ち着いて、少しゆっくり話すことを意識すると、相手は内容を理解しやすくなります。
そして最も重要なのは、相手の意見や質問、たとえそれが反論であっても、まずは「傾聴」する姿勢です。
「なるほど、そういう視点もありますね」
「貴重なご意見ありがとうございます」
と、一度受け止めることで、相手は尊重されていると感じ、建設的な対話が可能になります。
議論の中で、すぐに合意できる点と、持ち帰って検討が必要な点を明確にしましょう。
想定される質問や反論への回答は事前に準備しておくと、スムーズに対応できます。
一度の説明で全てが決まるとは限りません。
必要であれば、複数回の説明会や個別ヒアリングを設定し、粘り強く対話を重ねましょう。
継続的なコミュニケーションが、最終的な合意形成への道を開きます。
こうして関係者と練り上げた戦略こそ、真に実効性のあるものとなるのです。
まとめ:あなたの戦略に命を吹き込もう!仲間と共に未来へ
この記事では、知財戦略立案の最終ステップ「仲間を動かす」、特に事業部門への説明と合意形成について解説しました。
- プレゼンは「行動」と「共感」のため
- 「メリット」「役割」「期限」を具体的に
- 資料は「相手目線」でデザインする
- まず「自部門の合意」で足場を固める
- 「傾聴」と「対話」で合意を目指す
これらのステップを丁寧に踏むことで、あなたの立案した素晴らしい知財戦略は、机上の空論ではなく、組織を動かし、具体的な成果を生み出す力を持つようになります。
これまで、情報収集から始まり、分析、将来像描写、行動計画、そして今回の仲間を動かすステップまで、本当によく頑張ってこられました。
その努力は、必ずや実を結ぶはずです。
あなたの戦略に命を吹き込むのは、あなたと、あなたの想いに共感してくれた仲間たちです。
恐れずに、自信を持って、仲間たちに語りかけてください。
そして、共に「ありたい姿」へ向かって、力強く前進していきましょう!
【知財戦略立案5ステップシリーズ 完】
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
このシリーズが、皆様の知財戦略推進、そして事業の成功の一助となれば、これ以上の喜びはありません。
今後の皆様のご活躍を心より応援しております!
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