特許戦略で勝つ!:PEST分析で外部環境を徹底解剖し、知財を最大化する

自社の状況を理解したら、
次は外部の状況を理解する必要がありそうだね。

そうなんだ。
外部の状況も色々な視点があるけど、
まずは世の中全体の流れを知ることが必要かな。

世の中全体か~。
広すぎて、どうやって見て行ったらいいかわかんないよ。

世の中全体の流れを知るためのフレームワークがあるんだ。
この使い方を学んで、知財戦略に活かそう。

企業の知財担当者、経営者の皆様、こんにちは。

前回までの【Step1】では、自社の「事業」と「知的財産」という内部情報について深く掘り下げましたね。

自社の現在地と武器が見えてきたはずです。

しかし、どんなに高性能な船も、外の海図や天候を知らなければ、目的地にはたどり着けません。

そこで、【Step2:外部情報を知る】では、視点を「外」に向けます。

あなたの会社を取り巻く大きな環境の変化を捉えることが、次の重要なステップです。

なぜなら、外部環境の変化は、予期せぬ「脅威」となる一方、大きな「チャンス」をもたらすからです。

その変化をいち早く察知し、知財戦略に活かすこと。

それが、荒波を乗り越え、未来を切り拓くための鍵となります。

今回は、その第一歩として、マクロな外部環境を分析する強力なツール「PEST分析」を中心に、国の動向なども含めて解説します。

この記事を読めば、世の中の大きな流れを読み解き、知財戦略の方向性を定めるためのヒントが得られます。

さあ、未来を読む羅針盤を手に入れましょう!

この記事でわかること

✓ なぜ外部環境分析が知財戦略に不可欠なのか?

PEST分析(政治、経済、社会、技術)の具体的な進め方

各分析結果を知財戦略にどう活かすかのヒント

国の研究動向や市場の成熟度から戦略を考える視点

目次

マクロ環境を知る武器「PEST分析」とは?

まず、自社を取り巻く大きな環境、いわゆる「マクロ環境」を分析する代表的なフレームワーク「PEST(ペスト)分析」を紹介します。

これは、以下の4つの頭文字を取ったものです。

  • P (Politics:政治):政府の政策、規制、法制度、政治的な安定性など
  • E (Economy:経済):経済成長率、インフレ率、金利、為替レート、消費者の購買力など
  • S (Society:社会):人口動態、文化、ライフスタイル、価値観、社会問題など
  • T (Technology:技術):技術革新、新技術の導入、IT化、デジタル化など

これらの視点から外部環境を漏れなく分析することで、自社ではコントロールできない大きな変化の波を捉えることができます。

PEST分析の実践:4つの視点と「知財戦略へのヒント」

では、具体的に各視点で何を調べ、それが知財戦略にどう繋がるのか見ていきましょう。

【P (Politics:政治・法律)】変化を読み、リスクとチャンスに備える

政治や法律の動きは、事業のルールそのものを変える力を持っています。

  • 調査観点例
    関連法規の改正動向、新しい規制の導入、税制変更、政府の補助金・助成金、貿易政策、政局の安定性など。
  • 調査方法例
    政府・官公庁Webサイト、法律データベース、業界団体情報、ニュース、専門家への相談など。
  • 知財戦略へのヒント
    • 法改正はチャンスかリスクか?
      例えば、環境規制強化は、関連技術の特許出願を加速させるチャンスかもしれません。
      逆に、新たな規制が既存技術の利用を制限するリスクもあります。
      出願戦略や権利行使方針の見直しが必要になるかもしれません。
    • 補助金は活用できるか?
      研究開発や知財取得に関する補助金があれば、知財投資の追い風になります。
      積極的に情報を収集しましょう。

【E (Economy:経済)】市場の波に乗り、成長機会を捉える

経済全体の動きは、市場の大きさや顧客の購買力に直結します。

  • 調査観点例
    GDP成長率、物価変動(インフレ/デフレ)、金利・為替レート、個人消費の動向、エネルギー・原材料価格、特定市場の成長性など。
  • 調査方法例
    政府・国際機関の経済統計、経済研究所のレポート、金融機関の分析、業界団体の情報、ニュースなど。
  • 知財戦略へのヒント
    • 景気変動と知財投資:
      好景気なら積極投資、不景気なら費用対効果を厳しく見て知財ポートフォリオを見直す、といった判断が必要になるかもしれません。
    • 成長市場への展開:
      新興国など成長市場へ進出する場合、現地での権利取得(国際出願)や模倣品対策が重要になります。
      為替変動もコストに影響します。

【S (Society:社会・文化)】時代の価値観を捉え、ニーズに応える

人々の暮らしや価値観の変化は、新しいニーズを生み出します。

  • 調査観点例
    人口構成の変化(少子高齢化など)、ライフスタイルの多様化、健康・環境意識の高まり(SDGsなど)、働き方の変化、教育水準、世論・トレンドなど。
  • 調査方法例
    国勢調査などの政府統計、市場調査会社のレポート、SNS分析、メディア情報、学術論文など。
  • 知財戦略へのヒント
    • 新たなニーズと技術開発:
      環境意識の高まりは、エコ技術に関する特許の重要性を増します。
      高齢化社会は、ヘルスケア関連の知財戦略を必要とします。
      社会の変化を捉え、将来必要とされる技術を知財で押さえる視点が重要です。
    • ブランド戦略への影響:
      社会の価値観に合ったブランドイメージ(例:サステナビリティ)を構築し、商標等で保護していく必要性が高まるかもしれません。

【T (Technology:技術)】イノベーションの潮流を掴み、未来を創る

技術の進歩は、産業構造そのものを変えるインパクトを持っています。

  • 調査観点例
    AI、IoT、5G、バイオ、新素材などの新技術動向、既存技術の陳腐化スピード、デジタル化の進展度、研究開発投資の動向など。
  • 調査方法例
    学術論文データベース、特許情報データベース(非常に重要!)、業界レポート、技術展示会、技術ニュースなど。
  • 知財戦略へのヒント
    • 技術トレンドと研究開発:
      自社の事業に関連する重要技術トレンドを把握し、研究開発テーマや特許出願戦略に反映させます。
      他社の特許出願動向は絶対に見逃せません。
    • 技術の融合と新たな知財:
      異分野技術の融合(例:IT×医療)が進む中で、新たな権利確保や他社との連携(クロスライセンス等)の必要性が生まれます。
    • 陳腐化リスクへの備え:
      技術の進化が早い分野では、保有特許の価値が急速に低下するリスクも考慮し、ポートフォリオを常に見直す必要があります。

分析のヒント:情報を「機会」と「脅威」に変換する

PEST分析で様々な情報を集めたら、それを「自社にとってどういう意味を持つのか?」という視点で整理・評価することが重要です。

集めた情報を、

  • 機会 (Opportunity): 自社の成長や目標達成にプラスとなる要因
  • 脅威 (Threat): 自社の事業遂行上のリスクや障害となる要因

に分類してみましょう。

さらに、それぞれの「機会」と「脅威」について、

  • 影響度: 自社への影響は大きいか、小さいか?
  • 発生時期: それは短期的なものか、中長期的なものか?

といった軸で評価を加えると、優先的に対応すべき外部環境要因が見えてきます。

これが、後のSWOT分析などにも繋がっていきます。

国の動きを読む:政策・研究動向から未来を予測する

政府の政策や研究開発への投資動向も、重要な外部環境情報です。

  • 科学技術政策・重点分野:
    政府がどの技術分野に力を入れようとしているかを知ることは、将来の市場や技術トレンドを読むヒントになります。
    (内閣府、経産省などのWebサイトをチェック)
  • 科学研究費(科研費):
    どのような研究テーマに予算が配分されているか?
    これは将来の技術シーズの方向性を示唆します。
    「KAKEN – 科学研究費助成事業データベース」で検索できます。

KAKEN — 研究課題をさがす (nii.ac.jp)https://kaken.nii.ac.jp/ja/

これらの国の大きな方針は、中長期的な技術開発や市場形成に影響を与えます。

自社の知財戦略にも反映させるべき情報です。

市場の成熟度を知る:知財ライフサイクル戦略

自社の事業が属する市場が、ライフサイクルのどの段階にあるか(導入期、成長期、成熟期、衰退期)を意識することも重要です。

なぜなら、市場の成熟度によって、有効な知財戦略は変化するからです。

  • 導入期:
    まだ市場が小さい段階。基本となる技術を押さえる特許(基本特許)の確保が最重要。
  • 成長期:
    市場が拡大し、競合も増える段階。基本特許の周辺を固める改良発明や用途発明の特許網構築で、参入障壁を高める。
  • 成熟期:
    競争が激化し、差別化が難しくなる段階。
    既存特許のライセンス活用や権利行使による収益化、クロスライセンスによる事業防衛などが重要に。
  • 衰退期:
    市場が縮小する段階。
    不要な権利は放棄・売却し、維持コストを削減。新たな成長市場へのシフトを検討。

自社の市場がどのステージにあるかを把握し、それに合った知財戦略を考えましょう。

PEST分析の一例

それでは、具体的にイメージを持っていただくために、例を挙げてPEST分析を行ってみましょう。

テーマとしては、「プラントベースドフード、代替肉」としました。

PEST分析は、最終的に表に整理をするとよいでしょう。

今回は、プラス要因、及びマイナス要因の区分も作り、整理して表を作ってみました。

結果は、以下のとおりです。

カテゴリプラス要因(機会)マイナス要因(脅威)
政治
(Political)
健康志向への政策による需要増加
環境問題への取り組みによる普及促進
食肉産業への影響を考慮した規制
代替肉の表示に関する規制強化
経済
(Economic)
消費者の健康志向の高まりによる需要増加
食肉価格の高騰による価格競争力向上
代替肉の価格競争の激化
景気後退による消費者の購買意欲低下
社会
(Social)
健康志向と倫理観の高まりによる関心増加
若年層を中心とした食文化の変化による受け入れ
ヴィーガン・ベジタリアンの増加による市場拡大
既存の食文化との摩擦
情報発信による風評被害
技術
(Technological)
製造技術の進化による高品質・多様化
バイオテクノロジーの活用による食肉への近似
食品ロスの削減技術による環境負荷低減
流通・販売の効率化による販売促進
技術革新のスピードへの対応
製造コストの削減の限界

少しはPEST分析のイメージがわきましたでしょうか。

まとめ:外部環境を味方につけ、戦略の精度を高めよう!

今回は、【Step2:外部情報を知る】の第一歩として、PEST分析を中心に外部環境を調査する方法とその重要性を解説しました。

  • PEST分析でマクロな変化(政治、経済、社会、技術)を捉える。
  • 分析結果を知財戦略への影響という視点で解釈する。
  • 集めた情報を「機会」と「脅威」に整理・評価する。
  • 国の政策や研究動向も重要な情報源。
  • 市場のライフサイクルに合わせて戦略の重点を変える。

自社の内部情報(Step1)だけでなく、この外部環境の分析結果を組み合わせることで、
あなたの知財戦略はより客観的で、変化に強く、そして成功確率の高いものへと進化します。

次のステップへ!

マクロな外部環境が見えてきましたね。
次は、より自社の事業に直接的な影響を与える「業界に焦点を当てていきます。

次回【Step2-2】では、業界の動向、競合他社の具体的な動き、そして技術トレンドなどを詳しく調査する方法について解説します。

こちらの記事もぜひ参照してください。

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この記事を書いた人

企業の知的財産部門で働く、理系出身の弁理士です。

知財分野に関わり始めた方が、これからさらに成長していくお手伝いができればと思い、このサイトを作りました。

[経歴]
・2007年 関西の大学院を修了
・2007年 食品会社で研究開発を行う
・2013年 食品会社の知的財産部門で働く
・2019年 弁理士試験合格
・2020年 弁理士登録
・2021年 ブログを執筆開始

知的財産の世界を、できる限りわかりやすくお伝えしたいと思っております。
皆さんに少しでも興味を持っていただけると幸いです。

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