
知財戦略の目標設定って、具体的に何をすればいいんですか?どうも漠然としていて…。



良い質問ですね。目標設定は、戦略を成功させるための羅針盤のようなもの。成果を明確にイメージすることが重要なんです。



成果をイメージ、ですか?具体的には、どのようなことを考えれば良いのでしょうか?



例えば、特許出願数やライセンス契約数など、定量的な目標を設定することが重要です。詳しくは記事で解説しましょう。
前回【Step4-3】では、知財戦略における5つの強力な武器(戦法)をご紹介しました。
牽制、抑止、対処、折衝、諜報。
これらの武器をどう使うか、イメージが湧いてきたのではないでしょうか。
しかし、どんなに素晴らしい武器も、狙いを定めずに振り回しては効果がありません。
宝の持ち腐れになってしまいます。
そこで今回は、【Step4:行動を決める】の最終章。
選んだ武器(戦法)を確実に成果に繋げるための「目標設定」と「成果の明確化」、そして「費用対効果」と「実行計画(スケジュール)」について解説します。
「具体的な目標って、どう立てればいいの?」
「知財活動の成果って、測りにくいのでは?」
「計画倒れにならないか心配…」
そんな知財担当者や経営者の皆さまの疑問に答えます。
この記事を読めば、立案した知財戦略に魂を吹き込み、実行可能で測定可能な計画へと落とし込む方法がわかります。
「よし、これで戦略を動かせる!」と感じていただけるはずです。
さあ、戦略実現への最後の詰めを行いましょう!
・知財戦略における目標設定と成果明確化の「本当の」重要性
・ SMART原則を活かした、具体的な目標設定の方法とシナリオ例
・期待される成果のイメージ化とKPI設定のヒント
・費用対効果(ROI)を意識した戦略の考え方
・計画倒れを防ぐスケジュール管理と実行のコツ
1.なぜ目標と成果の明確化が必要か?~戦略に魂を吹き込む~
素晴らしい知財戦略を描いても、具体的な目標がなければ、それはただの願望です。
「ありたい姿」への道のりを示す地図にはなりません。
成果が明確でなければ、ゴールテープを切ったかどうかも分かりません。
目標設定と成果の明確化は、戦略に命を吹き込むために不可欠です。
具体的には、以下のメリットがあります。
- 進むべき道が明確になる。 関係者全員が同じゴールを目指せます。
- 進捗が「見える化」される。 定量的な目標で客観的に評価できます。
- やる気が高まる。 明確なゴールはモチベーションを刺激します。
- 投資判断がしやすくなる。 費用対効果を事前に検討できます。
つまり、目標と成果を定めることは、戦略を「絵に描いた餅」から「現実の成果」へと変えるための鍵なのです。
2.狙いを定める!SMARTな目標設定のコツ
では、どうやって目標を設定するか。
有名な「SMART」の原則を活用しましょう。
- Specific(具体的に):誰が、何を、どうするのか明確に。
- Measurable(測定可能に):達成度を数字で測れるように。
- Achievable(達成可能に):現実的な範囲で設定する。高すぎても低すぎてもダメ。
- Relevant(関連性をもって):経営目標や「ありたい姿」に繋がっているか。
- Time-bound(期限を決めて):いつまでに達成するのか明確に。
知財戦略では、特に「M(測定可能性)」や「A(達成可能性)」が難しい場合があります。
例えば、特許の権利化は審査次第です。交渉事も相手次第な面があります。
だからこそ、測定可能な指標を工夫したり、達成可能な範囲を見極めたりすることが腕の見せ所です。
【戦法別:具体的な目標設定シナリオ例】
単なる指標だけでなく、「誰に」「何のため」という背景を含めて設定しましょう。
戦法 | (何のため?なぜ? Relevant) | 目的/背景(何を・どのくらい・いつまでに? Specific, Measurable, Time-bound) | 具体的な目標(誰に?) | 主な対象
牽制 | 主要競合A社の類似技術開発の牽制 | 〇〇技術分野でコア特許を今年度中に3件出願 | 競争相手 A社 |
抑止 | 競合B社からの特許侵害リスクへの備え | B社の主力事業に関連するクロスライセンス用 特許を来期末までに5件創出 | 競争相手 B社 |
対処 | 競合C社の特許Xを無力化 | 半年以内に特許Xの無効資料調査を完了し、 無効審判請求可否を判断 | 競争相手 C社 |
折衝 | スタートアップD社との共同開発 | 今年度下期中にC社と共同開発契約を締結 | 共創相手 D社 |
諜報 | 新規事業分野における共創相手候補の発見 | 今期中に候補企業リスト(5社以上)を作成し、 初期コンタクトを開始 | 市場、 候補企業 |
あなたの会社では、どんな目標を設定しますか?実的な数値を設定することが重要です。
3.勝利のイメージを描く!想定される成果の明確化
目標が決まったら、次は「その目標が達成されたら、どんな素晴らしいことが起きるか?」を具体的にイメージします。
これが「想定される成果の明確化」です。
なぜこれが重要か?
それは、チームのモチベーションを高め、目標達成の意義を共有するためです。
また、後で戦略の効果を測定するための基準にもなります。
定性的な成果だけでなく、可能であれば定量的な成果イメージ(KPI:重要業績評価指標)も設定できると理想的です。
【戦法別:成果イメージの具体例(KPI例も)】
設定した目標を達成することで、具体的にどのような成果が得られるのか。
それを明確にイメージすることが、モチベーション維持や効果測定の鍵となります。
各戦法で期待される成果のイメージ例を表にまとめました。
「どのような成果(What)」と「それをどう測るか/どんな価値があるか(KPI例/価値)」に注目してください。
戦法 | (目標達成で何が起きるか?) | 期待される主な成果(どう測る?/定量的に) | 測定指標 / KPI例 (だからどう良い?/定性的に) | もたらされる価値
牽制 | ・競合A社の類似製品上市を遅らせる ・自社製品の先行者利益を守る | ・上市遅延 〇ヶ月 ・先行者利益 〇〇円確保 | ・市場優位性を維持できる ・新規参入の障壁となる |
抑止 | ・競合B社からの権利行使リスクを回避 ・不要なライセンス支払いを防ぐ | ・クロスライセンス締結 ・年間ライセンス費用 〇〇円削減 | ・安心して事業に集中できる ・事業の継続性が高まる |
対処 | ・競合C社の特許Xを無力化し障壁除去 ・新規市場で売上を立てる | ・特許Xの無効化成功 ・〇〇市場での初年度売上 〇〇円 | ・事業展開の自由度が上がる ・市場の競争環境が改善 |
折衝 | ・D社との共同開発で開発期間を短縮 ・単独では作れない製品を生む | ・開発期間 〇ヶ月短縮 ・新機能搭載製品をリリース | ・技術革新が加速する ・開発効率向上し競争力増加 |
諜報 | ・業界標準に自社技術を採用させる ・市場シェアと情報優位を得る | ・標準規格への採用決定 ・関連製品の市場シェア 〇%達成 | ・自社に有利な市場を創れる ・将来戦略の精度が上がる |
ポイント:
- 定性と定量の両面で考える: 数字で測れる成果(KPI)だけでなく、それによってもたらされる質的な価値(事業へのインパクト)も言語化しましょう。
- 測定可能な指標を選ぶ: KPIは、後で効果測定ができるように、具体的で測定可能なものを選びます。
- 成功のイメージを共有する: この成果イメージをチーム内で共有することで、目標達成への意識が高まります。
このように成果を具体的にイメージすることで、目標達成の意義がより明確になり、戦略実行への推進力が増すでしょう。
4.投資を無駄にしない!「費用対効果(ROI)」の考え方
知財活動にもコストがかかります。
弁理士費用、特許庁費用、調査費用、そして担当者の人件費などです。
これらの投資(費用)に対して、どれだけの見返り(効果)が期待できるか?
これを考えるのが「費用対効果」の視点です。
「知財ROI(Return on Investment)」とも呼ばれます。
費用対効果を意識することで、
- その戦術に投資する価値があるかを判断できます。
- 効果が低い戦術は見直すきっかけになります。
- 限られたリソースを最も効果的な活動に集中できます。
例えば、特許出願の費用と、それによって得られる独占期間の売上増や、回避できたであろう訴訟費用などを比較検討します。
ライセンス収入が、交渉や権利維持にかかる費用を上回るかなども評価軸です。
時には、戦術の規模を調整したり、他の戦術に切り替えたりすることで、費用対効果の最大化を図る必要があります。
厳しい判断も必要になるでしょう。
5.計画を現実に!「スケジュール管理」と実行のポイント
目標、成果イメージ、費用対効果が見えたら、いよいよ実行計画です。
「誰が」「いつまでに」「何をするか」を具体的にスケジュールに落とし込みます。
ガントチャートなどを使って計画を「見える化」するのが有効です。
ポイントは以下の通りです。
- タスクを細分化する:
大きな目標を小さな実行可能なタスクに分解します。
- 担当者を明確にする:
各タスクの責任者を決めます。
- 期限を設定する:
各タスクの開始日と終了日を決めます。重要な中間目標(マイルストーン)も設定しましょう。
- 進捗を管理する:
定期的に進捗を確認し、遅れや問題があればすぐに対応します。
- 柔軟に見直す:
知財活動は不確実性が伴います。審査期間の変動、交渉の難航など。状況に合わせて計画を柔軟に見直すことが重要です(アジャイル的な考え方)。
計画倒れを防ぎ、着実に目標達成へと進むために、スケジュール管理は不可欠です。
6.まとめ:目標と計画が、戦略を成功へと導く!
今回は、知財戦略を「絵に描いた餅」で終わらせず、確実に成果に繋げるための「目標設定」「成果明確化」「費用対効果」「スケジュール管理」について解説しました。
- SMARTな目標で狙いを定め、
- 具体的な成果イメージでモチベーションを高め、
- 費用対効果で投資の妥当性を判断し、
- 計画的なスケジュールで実行を管理する。
これらをしっかりと行うことで、あなたの知財戦略は、単なるアイデアではなく、事業成長を力強く後押しする「実行可能な計画」へと昇華します。
ここが戦略実行の正念場です!
さあ、あなたの素晴らしい戦略に魂を吹き込み、具体的な行動計画へと落とし込んでいきましょう!
【Step4:行動を決める】はこれで完了です!
具体的な戦術とその計画が見えてきましたね。しかし、戦略は一人では実行できません。
次は、いよいよ【Step 5:仲間を動かす】です!
立案した戦略プランを、経営層や事業部門、研究開発部門など、関係する仲間たちに共有し、理解と協力を得て、組織全体で実行していくためのステップに進みます。
戦略立案の最終話、こちらの記事も参考にしてください。


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